03 木﨑賢治(「Good night」音楽プロデューサー) | 福山雅治30周年スペシャル企画 七人の男が見た「至近距離の真実」
Fukuyama
FUKUYAMA MASAHARU 30th ANNIVERSARY 30周年スペシャル企画 七人の男が見た「至近距離の真実」 30年の間に、福山さんと仕事をしてきたアーティストやクリエーターたちに話をお伺いしました。 福山さんと向き合う中で生まれたさまざまな想いやエピソードが詰まったTRUE STORY。 福山さんの才能を引き出し、運命を変えた(かもしれない)方たちの語りをお楽しみください。
目次
  • 01 大泉洋(俳優)
  • 02 大友啓史(『龍馬伝』演出家)
  • 03 木﨑賢治(「Good night」音楽プロデューサー)
  • 04 千葉幸順(コンサート制作会社社長)
  • 05 萬年里司(音楽プロデューサー) × 06 川上泰司(宣伝プロデューサー)
  • 07 SION(シンガーソングライター)

02 木﨑賢治(『「Good night」音楽プロデューサー

03 木﨑賢治(「Good night」音楽プロデューサー)
福山くんのすごいところは〝普通〟を特化した感性 03 木﨑賢治(「Good night」音楽プロデューサー)  福山くんのすごいところは〝普通〟を特化した感性

僕が人に魅力を感じるのは、その人にギャップがあるところなんです。初めて福山くんに会ったときに、彼がすごく音楽が好きなのはすぐにわかったんですけど、じゃあどうして俳優をやってるの? って聞いたら、「なんとなくそういうことになって」ってすごく正直な答えが返ってきたんです。そのときにいろいろな話をしたんですけど、寝ているときにどんな格好をしているのかって話になって、福山くんは「すっぽんぽんで寝てるんですよ」と。面白いなあと思ってね。ハンサムだからカッコつけても様になるの に、全然そんなところがなくて開けっぴろげで、そのギャップに人間的な深みを感じました。かわいいなと思いました。

彼はロックっぽい曲を志向していたけど、俳優として演じる役は尖った感じではなかったから、見ている人からすると歌っている姿と演じている姿が違って見える。つまり歌が本当でなくなっちゃう。だからもうちょっとドラマでやっているキャラクターに近いものでやると、見ている人にとって矛盾のないものになるだろうから、ラブソングというのはいいテーマだと思いました。

あるとき「Good night」の歌詞ができたから見てくださいって本人から連絡をもらったので、その詞を見ながら話しました。僕は、詞は書くものではない、言葉は出すんじゃなくて出てきちゃうものだと思ってるんです。要するに反応がすべて。設定がはっきりしていれば出てくる。その出てくるものが普通で終わっているのか、そうでないのかということだと思う。福山くんの場合は最初に会ったときの印象が面白かったから、絶対に出てくるだろうという確信がありました。それでいろいろ質問して、それに彼が答えるというやりとりをしたんです。例えば歌詞の中の「僕をわかってもらえるように今度は僕の好きな場所へ連れてくよ」っていう言葉があるんですけど、これもそのときに彼から出てきたものです。素敵ですよね。一番好きな部分です。他愛もない言葉なんだけど、歌っている人が、まだ知り合って間もない女の子に対してどうなりたいのかという気持ちと考え方がすごく伝わってきます。福山くんはできた歌詞に対してすごく恥ずかしかったみたいでしたけど、歌うことっていうのは本音をさらけ出すことで、本来恥ずかしいことですから。思っていても普通なら言わないことを歌にするからみんなに共感してもらえるので、恥ずかしいっていう気持ちは表現者にとってとても重要な気持ちだと思います。

彼のすごいところは、普通がすごい、というところです。普通だと平凡で終わってしまうんですけど、その普通を特化した感性で人とは違う観点から捉えることができる才能というか。多くの人は普通のことをして生活しているんです。朝起きて、食べて、話して、寝て、その中で人を好きになって。でも普通の瞬間に何を感じるかは人それぞれ違う。女の子の手を握った瞬間に、やったー! って思う人もいるし、もう離さないぞって人もいる。彼女の手って小さいんだなとか、あるいはどこかに行ってしまわないか不安に思う人もいる。普通のことの中で何を感じるか。普通の中の特別を感じることが実は一番難しくて、一番人に寄り添えるものなんですよね。個性は普通のことにしか宿らない。普通で突出しているのが最もすごいことなんです。福山くんはまさにそうした、普通がすごい、という才能を遺憾なく発揮している人だと思います。

好きな福山歌

桜坂」の歌詞の一節に「愛は今も 愛のままで」「夢は今も 夢のままで」という言葉がありますよね。すごいなと思いました。簡単な言葉なのに、本質を捉えていて、これほど印象に残るものってなかなかないですよね。どうやってあの言葉が出てきたのかな。それを知りたい(笑)。

木﨑賢治さんへ

木﨑さん、本当にお久しぶりです。長い間お会いできてないにもかかわらず本企画にご登場いただけたこと、本当にありがとうございます。これまでにも木﨑さんとのエピソードは折に触れお話しさせていただいてました。僕にとって初のオリコンTop10シングルとなった「Good night」をプロデュースしていただいた時の、まさに"眼から鱗"な体験の話を。改めて、「Good night」の制作過程を振り返りますと……。

あれは、当時業界人御用達だった渋谷は道玄坂のカフェでした。そのカフェで、まだ歌詞がついてないメロディーだけのデモ音源にどういう歌詞を書くべきか?木﨑さんと打ち合わせをすることになりました。連続ドラマ挿入歌のタイアップという、デビュー以降シングルセールスが鳴かず飛ばずだった僕にとってはまさに千載一遇のチャンスでした。ですが、ドラマサイドからのリクエストは「ずばり、ラブソングで!」と。それまでラブソングというものを書いたことのなかった僕は、まったく歌詞を書き出すことができず、どうしていいものやら途方に暮れていた状態でした。そんな中、木﨑さんとの歌詞打ち合わせは予想もしてない始まり方をしました。木﨑さんは、「福山くんは人を好きになったらどういう気持ちになるの?」「大切に思ったら、どうするの?」と、穏やかに、しかし的確に問いかけてこられました。僕自身にとっては、他人には話したことのない心のヒダを触れられるような、そんなインタビューが始まりました。不思議なことに木﨑さんに問いかけられると、「男子たるもの、そんな恥ずかしいこと人に言えるか!」とはならず、正直に答えながら、その言葉をノートに手書きで書き綴っていきました。ひとしきり質問が終わり、5ページほどの回答が書かれたその文言を確認した木﨑さんは「うん、出来たね。後はこれをメロディーにはめてみて」と。そして家に帰り、さっきの言葉達をメロディーに乗せると、ほぼ今の形の「Good night」 が出来上がってました。まるで凄腕マジシャンの手品見せられているような、もしくは魔法使いの魔法にかけられたような気分でした。

プロデューサーやディレクターと呼ばれる人たちは、もともとアーティスト自身が持っている内なるタレントを引き出すタイプと、プロデュースする自分の色に染めるタイプと、ざっくり2種類に分けることができるのではないかと僕は思っています。ですが木﨑さんは、この2つをまさに魔法のように高次元で融合させることが出来るプロデューサーでした。

木﨑さんに引き出していただいたもの、それは手前味噌ですが、表現することにおいてもっとも重要な「自らと正直に向き合うこと」だったのではないかと。自分の正も負も含めて、弱さやズルさ、罪深さや醜さとも向き合うということ。他人には見せない生々しい感情、それこそをエンターテインメントとして昇華させるべきだ、ということなのかと。好きな子に対して自分が何を思い、何をあげたいか?なんて恥ずかしくて友達に話したことない自分でしたから、それが歌となりテレビから流れるなんて……、恥ずかしくて死んでしまいたい…!というのが木﨑さんに出会う前の僕でした。人には見せたくない、知られたくない、そう思うほどのものじゃないと人の心は揺さぶれない。木﨑さんとご一緒させていただいたのは「Good night」一曲のみですが、表現の真髄への気付きをいただけたプロジェクトでした。シンガーソングライターとしての道を拓いていただけたこと、今でも心より感謝いたしております。

福山雅治
目次
  • 01 大泉洋(俳優)
  • 02 大友啓史(『龍馬伝』演出家)
  • 03 木﨑賢治(「Good night」音楽プロデューサー)
  • 04 千葉幸順(コンサート制作会社社長)
  • 05 萬年里司(音楽プロデューサー) × 06 川上泰司(宣伝プロデューサー)
  • 07 SION(シンガーソングライター)