02 大友啓史(『龍馬伝』演出家) | 福山雅治30周年スペシャル企画 七人の男が見た「至近距離の真実」
Fukuyama
FUKUYAMA MASAHARU 30th ANNIVERSARY 30周年スペシャル企画 七人の男が見た「至近距離の真実」 30年の間に、福山さんと仕事をしてきたアーティストやクリエーターたちに話をお伺いしました。 福山さんと向き合う中で生まれたさまざまな想いやエピソードが詰まったTRUE STORY。 福山さんの才能を引き出し、運命を変えた(かもしれない)方たちの語りをお楽しみください。
目次
  • 01 大泉洋(俳優)
  • 02 大友啓史(『龍馬伝』演出家)
  • 03 木﨑賢治(「Good night」音楽プロデューサー)
  • 04 千葉幸順(コンサート制作会社社長)
  • 05 萬年里司(音楽プロデューサー) × 06 川上泰司(宣伝プロデューサー)
  • 07 SION(シンガーソングライター)

02 大友啓史(『龍馬伝』演出家)

02 大友啓史(『龍馬伝』演出家)
21世紀の新しい龍馬像を福山さんとなら作れると思った 02 大友啓史(『龍馬伝』演出家)  21世紀の新しい龍馬像を福山さんとなら作れると思った

NHK大河ドラマ『龍馬伝』のチーフ演出という立場で僕は福山さんと一緒にお仕事をさせていただきました。やっている最中はもうとにかく必死だったので、撮影中にどんな話をしたかは、実はあまり覚えてないんです(笑)。印象に残っているのは、撮影も残りわずかというときになって、「この作品を見た人が、10年後、20年後、映像の世界を志すきっかけになる、そういう作品になるといいですね」って福山さんがおっしゃっていたことですね。それまでの大河に比べたら、突拍子もないことや新しい試みに毎回挑戦していましたから。それ で爆発的に数字を獲ったかと言われればそこまでではなかったんですけど、現場の熱量と視聴者の反響がとにかくものすごかった。うまくかみ合った、という感じですね。福山さんが予言されたように、後々『龍馬伝』を見て映像の世界に興味を持ったっていう人が僕のところに来たりしますからね、いまでも。「やめておいたほうがいいよ」って冗談で言ったりしますけど(笑)。

そもそも僕はNHKの局員ではありましたけど、大河ドラマにはそれほど興味はありませんでした。そんな僕に大河をやってくれっていうことは、つまり大河を変えてくれっていうことなんだろうなって勝手に解釈して(笑)、構想を練り始めました。ちょうど世の中は、バラク・オバマが黒人で初めてのアメリカの大統領に就任したときで、彼の選挙時のスローガン「CHANGE」が、ちょっとしたブームになっていました。世間の風潮的にも、変えていかなければ、という空気が蔓延していた。そんな中で大河ドラマにも新風を、ということになったのだと思います。そこで思い浮かんだのが坂本龍馬という題材でした。ただ、それまであった龍馬像というのは、どうしても司馬遼太郎さんの小説『竜馬がゆく』のイメージが強すぎて、なかなか新しい龍馬像が見つかっていなかった。そこにやりがいを感じたんですね。そうだ、21世紀の坂本龍馬像を作ろうと。そうするには、幕末のスーパースターと現代のスーパースターを掛け合わさないといけない。現代のスーパースターって誰だ? って考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが福山さんだったんです。

福山さんが坂本龍馬になる
ドキュメンタリー

端正な顔立ちはしていらっしゃいますけど、とくに彼の音楽を聴いたりしていると、骨太な人なんだろうなって思いました。それに地方出身者独特の負けん気とか、社会をちょっと俯瞰しているかのような目線とか、男性が共感できる部分がたくさんあるなあと感じたんです。局内でも福山さんで新しい龍馬をやるんだということで意思統 一して、あとは福山さんを口説き落とせればいけるっていうところまで僕たちは勝手に盛り上がっていました。ただ福山さんからすると、大河? 龍馬? っていう、あらぬ方向からボールが飛んできたみたいな感じで、最初は戸惑いもあったと思います。なのでしばらく考えさせてほしいということで期間が空いて、ある日、やりますっていうお返事をいただいたときは飛び上がって喜びましたよ。福山さんが演じる龍馬という柱ができて、そこからキャスティングであったりストーリーであったりという部分がどんどん広がっていきました。

いよいよもうすぐ撮影が始まるというタイミングだったと思います。長崎の稲佐山ライブに行ったんです。そこで、こういう演出でやりたいんですっていう、いわば、こちらの企業秘密のような演出プランを細かく書いて書面にまとめて持って行ったんです。それを福山さんに渡そうと思って。でもライブを見ているうちに、やめちゃえー! ってなった(笑)。もうこんなの見せるのやめたって破いちゃった。要するに、龍馬ってこういう人ですっていう結論を先に示してしまうと面白くない。向かう先、結論を想定 して走る方法は止めようと。もちろん撮影期間が短い作品の場合はそういう演出が有効なんですが、大河の場合は1年かけて撮っていく訳ですから、言ってしまえば、龍馬という役を演じようとしている福山雅治のドキュメンタリーというスタンスで、福山さんからも新しいものをどんどん引き出していくことで、『龍馬伝』ならではの鮮度やリアリティが生まれてくると感じたんです。ある意味、福山さんが龍馬になっていくプロセス、それこそが新しい龍馬像を作るということだなって、福山さんのライブを見ながら気付いたんですよね。土佐という温暖な国の裕福な家に生まれた、ぼーっとした坊ちゃんが、江戸に出て、いろんな人から刺激を受けて、知識を吸収し、脱藩して、やがて世の中を自分が変えなきゃいけないんだと目覚める、その過程が長崎からミュージシャンに憧れて東京に出てきてという福山さん自身のヒストリーとも重なる部分が見えたんです。

だから僕としては、福山さんと密にコミュニケーションを取るというよりも、周りの役者さん、それこそ香川照之さんや大森南朋さんといった演じ手の方々からとにかく次々と仕掛けてもらい、福山さんを常に刺激し続けることに専心しました。それを受けて福山さんがどう反応するか、それがすべてだろうと。やっぱり僕らが作りたかったのは新しい龍馬像なんです。これまでのような、熱弁ふるって自分の意見を披露して仲間を引っ張っていく、というよりは、むしろ周りの人の話を聞けるリーダー、それこそが求められているのではないかと。それはつまり、龍馬かくあるべし、というものを一切設けず、シーンによっても各話によっても違う、いろんな龍馬が福山さんの中から出てきてほしい、その瞬間が観たいと熱烈に思いました。そうやって1年かけてグルーヴしながらライブ感覚で創り上げた作品、それが『龍馬伝』でした。

第29話で武市半平太(大森南朋)が切腹し、岡田以蔵(佐藤健)が斬首されるんですが、それを受けて海岸に立つ龍馬とのカットバックに、こんなナレーションが入ります。「命の儚さを思い知り、志の尊さを知り、悲しみも、別れも、虚しさも、悔しさも、恐ろしさも、人の情けも、愚かしさも知り、龍馬はこのときから、あの坂本龍馬になっていったがじゃ」。歴史において、ようやくここから龍馬という存在が表舞台に出てくるのですが、『龍馬伝』という作品においても、この瞬間から福山雅治と坂本龍馬が、僕の中で完全に一致しました。いやあ、かっこよかった、痺れましたね、本当に。香川さんがずーっと泣きながらナレーションを入れていましたね。武市さんとの別れのシーンでは、龍馬も涙や鼻水でぐちゃぐちゃになるんですけど、撮り終えた後に福山さんが「そのまま使ってください」って言っていたのがすごく印象に残っています。

『龍馬伝』から今年でちょうど10年ですか。福山さんもデビュー30周年ということで、いろいろとキリがいいですね。そろそろまた一緒にやりませんか?

好きな福山歌

『龍馬伝』が始まるときに繰り返し聴いていたのが「群青~ultramarine~」。実はあの曲を『龍馬伝』の第1話の映像に当てて聴きながら、編集マンと2人で作業していました。幼い頃の泣き虫龍馬が、この先ぶっとく育ってくれたらいいなって思いながら、「いいよねー、この曲」って話してました。

大友啓史さんへ

大友さん、ご無沙汰しております。『龍馬伝』からちょうど10年になるんですね。僕は自分の過去作品は照れくささもありほとんど見返さないのですが、『龍馬伝』は見返すことがあります。ご存知かと思いますが、大友さんとプロデューサーの鈴木圭さんに初めてお会いした時、実は6割方お断りする心算でした。大河ドラマという大舞台、それに坂本龍馬という存在があまりにも巨大すぎて。日本の歴史上のスーパースターですし、人々のなかでそれぞれの龍馬像がすでに出来上がっている。熱狂的ファンの方々もたくさんいらっしゃる。とにかく最初は「大河」「龍馬」「福山」がどうにも結びつかなくて。

だけど大友さんや鈴木圭さんがおっしゃるには、今回の大河ではこれまでの坂本龍馬像を刷新したい、いままでのイメージとは全く違う龍馬を創りたいのだと。色々ぶっ壊しちゃいましょうよ!と悪戯っ子のように楽しそうにされてて(笑)。僕は大友さんが手がけられたNHKドラマ『ハゲタカ』と『白洲次郎』を拝見していました。たしかに大友さんの作品はこれまでのテレビドラマの表現方法とは一線を画した作風で、一表現者として一緒に仕事をご一緒したいと熱望していたのですが、いきなり龍馬さんか…、と。ま、ビビってたわけですよね(笑)。

そして、大友さんが掲げられた「幕末生中継」というコンセプトで撮影が始まるんですが、これがまた未体験の撮影手法でして。驚きましたねぇ。事前にリハーサルしない、現場でテストもしない、「さぁ!撮りましょう!」って。クランクイン直後は嘘でしょ!?な毎日(笑)。"歴史を振り返るんじゃない、幕末をそのまま生中継するんだ"というコンセプトの大友組の撮影は何もかもが初めての体験で、それはそれは刺激的な現場でした。

だから最初の頃は正直戸惑うことのほうが多かったです。始まって5話目くらいまでは、ああでもない、こうでもないと、よく大友さんと鈴木圭さんと打ち合わせをさせていただきました。本当にこれでいいんですかね?僕、大丈夫ですか?と。何がどう撮れているのか不安で不安で(笑)。だから僕が『龍馬伝』という作品をしっかり受け止め、あの撮影現場での日々をきちんと咀嚼することができたのは、すべての撮影が終わってからだったと思います。それくらい無我夢中な日々でした。

この『龍馬伝』という作品、最初に大友さんがおっしゃっていた"いままで誰も観たことがない大河ドラマを作るんだ"という目標は達成できたのでは、と。その手応えを僕も演者の一人として感じられたし、そんな作品に参加できたことは本当に嬉しいですね。ビビりながらも一歩踏み出して良かったです(笑)。

大友さん、前も言ったかも知れませんが、改めてこの場を借りてお伝えさせてください。大友さんの生き方こそが龍馬的生き方かと。常に"誰も見たことがない作品作り"という未知なる戦いに挑み続ける勇気、情熱、やり切っていきなり退社しちゃう大胆さ(笑)、演者やスタッフさんに対する繊細な気遣い、そして少し照れ屋なところ。まさに龍馬さんの魂が宿っておられるかと。引き続き映像作品に革命を起こし続けてください。そして、次なる革命にまた立ち会いたいです。それまでお互いに暗殺されないように気をつけつつ(笑)。お声がけお待ちしています!

福山雅治
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  • 01 大泉洋(俳優)
  • 02 大友啓史(『龍馬伝』演出家)
  • 03 木﨑賢治(「Good night」音楽プロデューサー)
  • 04 千葉幸順(コンサート制作会社社長)
  • 05 萬年里司(音楽プロデューサー) × 06 川上泰司(宣伝プロデューサー)
  • 07 SION(シンガーソングライター)